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福岡高等裁判所 昭和45年(行コ)3号 判決

控訴人 別府税務署長

河野政司

右指定代理人検事 上野国夫

〈ほか三名〉

被控訴人 合資会社 塩久

右代表者無限責任社員 家近みどり

右訴訟代理人弁護士 太田博太郎

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す。第一次的に被控訴人の本訴請求のうち、昭和三八年三月一日より昭和三九年二月二九日までの事業年度分繰越欠損金額を更正した処分の取消を求める部分を却下し、昭和三九年三月一日より昭和四〇年二月二八日までの事業年度分法人税および過少申告加算税の課税処分の取消を求める部分を棄却する。第二次的に被控訴人の請求はいずれもこれを棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張および証拠関係は左に付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。(ただし、原判決八枚目表六行目に「同家近みどり」とあるを「原告代表者家近みどり」と訂正する。)

控訴代理人の主張

(1)  更正処分の理由附記は常に画一的に記載しなければならないものではなく、その程度は当該青色法人との関係で当該事案に応じて相対的に解すべきものである。本件の場合被控訴人代表者の旅費否認については、調査を行なった税務職員が更正通知書発送前に被控訴人の経理担当者にその理由を説明しているので、被控訴人としては本件更正通知書記載の程度で十分更正の理由を知り得たものというべく、理由附記に不備はない。

(2)  仮りに右更正通知書の附記理由に不備があったとしても、その後になされた本件審査裁決書の記載によって右瑕疵は治癒されたものと解すべきである。すなわち、当該更正処分とこれに対する異議申立および審査請求は、併せて行政機関内部における租税確定に至るまでの一連の手続と考えることができるから、これに対する決定、裁決において更正処分の理由の具体的根拠が明確に示されたときは、更正処分における附記理由の不備の違法は治癒されるというべきである。本件の場合審査裁決において被控訴人代表者の海外渡航費を否認した理由を具体的根拠を示して詳細に記載しているばかりでなく、調査の過程において裁決庁の担当者が被控訴人に十分理由を説明しているから、前記更正処分の瑕疵は治癒されたものである。

理由

当裁判所も、左に付加するほか原判決と同一理由により被控訴人の本件各請求は認容すべきものと判断するので、原判決理由説示をすべて引用する。

(1)  控訴人は本件更正処分に際し、調査をなした税務職員が被控訴人側に更正の理由を説明しているから、本件更正通知書記載の程度で被控訴人は十分理由を知り得たものであると主張する。しかしながら法人税法三二条(昭和四〇年法律第三四号による改正前のもの)により更正処分に理由を附記せしめることは、単に相手方納税義務者に更正の理由を示すためのみに止まらず、漫然たる更正のないよう更正の妥当公正を担保する趣旨をも含むものというべく、従って更正の理由附記は、その理由を納税義務者が推知できると否とにかかわりのない問題といわなければならないから、控訴人の右主張は採用できない。

(2)  そこで熊本国税局長のなした本件裁決書に記載された理由により、控訴人がなした原処分たる昭和三八事業年度に関する更正処分の附記理由不備の違法が治癒されるか否かについて判断する。

前叙の如く法が更正処分に理由を附記すべきものとしているのは、一つには処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制することを目的としているものであるから、かかる保障的機能に鑑み、その附記理由は当該更正処分自体において具体的根拠を示した独立自足的なものであることを要すると解する。従って右附記理由の不備は、当該更正処分固有の違法として、後に審査裁決において法所定の要件を満たした理由が附記されたとしても、そのことにより当然に治癒される如き性質のものではないといわなければならない。若し控訴人主張の如く瑕疵が治癒されるとすれば、行政庁としては相手方納税義務者に対し、不服審査の申立をまって最終的な裁決段階で原処分の理由を示せば足りることになって、一面においては納税義務者の権利が侵害されるおそれがあるばかりでなく、他面処分庁の税務行政はそれだけ安易に流れる可能性を生じ、前述の保障的機能は失われる結果となる。このことは更正処分に附記理由を要求する前示法条を訓示規定化するものであって法の所期しないところであるから、爾余の点につき判断するまでもなく控訴人の右主張は排斥せざるを得ない。

してみれば原判決は相当であって本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 入江啓七郎 裁判官 藤島利行 前田一昭)

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